新宿合気会web 3号 「人と争わないということは」

道場には、色々な動機で稽古を続けている方がいます。

合気道は「争わない」とよく言われます。その表現は技術的な意味で用いられることが多いようです。そして、そこには試合形式を取らないという意味も含まれています。

確かに日頃の稽古では、いかに無駄な力を用いずに相手との調和において技を行うかを考えながら稽古をしていますので、この「争わない」というキーワードは重要なテーマであると言えます。

しかし、人と争わないというのはもう一つの側面を持っているようです。実は、これが長く合気道と付き合っていく上では重要な点であると言えます。

 

それは、ライバルを作らないということです。

合気道を始めた時には、同期やすぐ近くの先輩や後輩がいるものです。そして互いに切磋琢磨して、とにかく一つの目標である初段を目指して、稽古日数を落とさずに、最短での昇段を目指して稽古に夢中になりがちです。そのこと自体はとても良いことです。

しかし、ちょっとしたことをきっかけに、たまたま仕事や他の用事が忙しくて稽古に参加できなくなってしまい、そうこうしているうちに後輩に昇級昇段が抜かれてしまった、自分だけ級位が遅れてしまった…という状況になることがあります。

そんな時、何となくモチベーションが下がり、稽古に行きたくない気持ちになってしまいます。本当は合気道が好きなのに…です。

 

こんな時こそ、合気道の特徴である、「人と争わない」を思い出すことが重要なのです。

私たちは何のために稽古をして、級位や段位を上げていくのでしょうか? 合気道を始めた時から昇級昇段のレースに参加しているのでしょうか? 違うと思います。自分のために稽古を始めたのだと思います。

ですから、人と級位段位の取得スピードを争っている訳ではありません。自分のできるペースで、自分で掲げた目標に従って稽古をやっているのであって、他人とは争っていません。強いて言えば、競争相手は自分ではないでしょうか?「己に勝つ」とよく言いますが、まさに稽古を通じて自分に打ち克つ、己に勝つというところに真の自己形成としての合気道を取り組む価値があるのだと思います。

 

私たちの道場では、そのようにマイペースで、けれども稽古に来た時には最善を尽くし、一生懸命に稽古されている方を目にします。

 

今、新型コロナウィルスの影響で道場での稽古ができない状況です。

稽古再開になった際には、是非また気持ちを新たにして皆さんで稽古をしていきましょう。

これまで継続的に稽古していた方も、ちょっと何らかの理由で稽古に参加できなかった方も一緒になって気持ちを新たにしていきましょう。

 

稽古ができない期間、そんな合気道への取り組み方や、自分の気持ちの整理などに時間を費やすのも有効かもしれませんね。