新宿合気会web 21号「有段者の稽古」

 毎回のブログで、稽古内容については初級者向けのものが多いように感じる方もいると思います。今回は有段者向け、上級者向けの稽古の仕方について述べたいと思います。

 

 初段取得後、審査の間隔は級位だった時に比べ非常に長くなります。そして一級までは出題範囲も明確だったものの、初段以降はざっくりとしているため、明確な目標を持ちにくくなります。残念なことに初段取得後に稽古に来なくなってしまう方も中にはいます。

 

 しかし、合気道は初段取得後にもっと楽しくなっていきます。

 一級まではとにかく基本となる技を覚えることがテーマとなりますが、有段者は覚えた技を深めていくことに主眼を置いていくことになります。

 いつも稽古の場で言っておりますが、何年経っても、何十年経っても、初心者同様に一教、四方投げ入身投げをやるわけです。技術を深めていくことに主眼を置かなければ、すぐに飽きてしまいます。

 

 技術を深めていくことは、基礎のレベルを上げていくことにつながります。

 ここを捉え違える人が多いようです。いや、なかなか気付かないというか、気付かないふりをして別のことに夢中になる人が多いのです。技の質より量を増やすことや、基本とは異なる独自路線に行ってしまうケースなど。

 まぁ、分からなくもないです。いろいろと覚えてきて、他のやり方が気になる、試したくなるというのも。特に現代のインターネット社会のように情報に溢れている場合であれば、その気持ちも分からなくもないです。

 しかし、やはり原点回帰です。基本をより深めること、今まで以上に基本を考えることが肝要です。初段で取り組むべきは、悪い癖を直すこと。それができる最後のチャンスだと思った方が良いです。初段でその意識を持たず放置をすると、段位が上がった時になかなか修正が効かなくなってきます。簡単なことです。指先はちゃんと開く、受けの技術を向上させる、一教運動・転換・転身・転回の動作を理解し技にどのように役立っているか考える癖をつける、送り足、継足、歩み足などの足運びもできるようにする、などです。指先を開けない人が本当に多い。日々の稽古で強調して説明していますので、留意してもらえればと思います。

 

 

 また、初段になると、自分自身の稽古に加えて、後輩や初心者との接点も増えてきます。ここで大切なことは、指導者と同じ言葉で後輩に伝達できるか?です。指導の際にオリジナリティばかりが目立つようであれば、それは自分が何も学んでなかったという意味に等しいです。そして、なるべく言葉で説明せずに、言いたいことを技で表現し理解させようとする気概が重要です。 ある素晴らしい景色を説明するときに、「見た通りだよ」と言ってしまうのが最も効率的で、最良の選択肢であるはずです。素晴らしい景色を説明するのに「あそこに大きな木があって、その後ろには大きな素晴らしい山があって、その手前には…」と延々と説明しても大変です。だから自分で言いたいことを技で表現でき、相手に技を通じて分からせてしまえば最も楽で効率的なのです。昔の稽古には会話がなかったのは、実は最も効率的だったからです。言葉で説明してもどうせ分からない。だったら分かるまで体を動かして繰り返し稽古をした方が効率的な稽古が実現できるわけなのです。

 

 そして初段が取り組むべきもう一つは、今までの技をさらに磨くことです。二段の昇段審査の際に、どうしても短刀取りや二人掛けの技ばかり夢中になりがちです。しかし重要なのは今までの技に磨きをかけることです。 まず初段は昇段したのがそもそもギリギリ合格だった、ということを認識しなければなりません。これはすべての昇級・昇段において言えます。そのように認識することが重要です。何年たっても三教とか四教になると自信なさげに稽古するようでは全くダメなのです。だからもし昇段審査を意識するのであれば、まずは知っている技をもう一度見直し、取り組むところから始めると良いでしょう。

 

 初段、二段、三段と進んでいっても、一生懸命頭と体に等しく汗をかいて、稽古に取り組めることが大切です。 次回以降もひたむきに稽古に取り組んでいきましょう。