新宿合気会web 20号「まじめなことはゆかいに ~技はキーワードで学ぶ~」

 昨年一年間はインドネシアジャカルタグループ道場への訪問、全日本合気道演武大会出場、新宿合気会演武大会、東京都合気道連盟演武大会、それ以外にも様々な行事がありましたが、もっとも印象的なことは、新入会員の方々が増え、道場の雰囲気が変わってきたことです。新入会員は、合気道を全くこれまでやってきたことがなく文字通りゼロからはじめる人、少しだけやったことがある人、他の道場でやっていて級や段位を持っている人と様々です。

 既存会員の中でも他の道場で稽古していた人もいますし、ずっと当会で稽古をしている人もいますが、当会では本当にいろいろな人が稽古をしています。

 

 初級、中級、上級者に関わらず、稽古は同じ技を行いそれぞれ技量に応じテーマを自分で見つけ稽古を一緒に行っていきます。

 ここ最近指導で特に強調していることとしては、「入身」「転換」「転身」「転回」「呼吸法」というキーワードで技の解説を行い、稽古する側もキーワードで体が動けるようにしてもらうことです。まずは、それぞれの言葉の意味を理解しなければなりませんが、毎回稽古の準備運動でやっており、初級の時点でしっかりと習得してもらいます。このキーワードが分かってくるようになると技が覚えやすくなります。

 例えば四方投げ(裏)を説明すると、①入身転換し、②呼吸法で振りかぶり、③転回し切り下ろす。このように非常に簡明です。

これをキーワードを用いずに説明すると、やや前進に自分の前足を進め、前足を軸足に180度背面に回転させ、両手を振りかぶり、両足を親指の付け根を軸に180度回転させ、振り下ろす…となり、聞いている方にとっては逆に難しくなってしまいます。

 当会のジャカルタ道場「天恵道場」でもキーワードを強調して指導が行われています。むしろ彼らの方がその点を重要視しており、新宿合気会側もそれを参考にして重視するようになりました。彼らは「転換」をそのまま「TENKAN」と発音し稽古で用いています。

 キーワードで覚えていくことで、いろいろな技に対して瞬時に対応することができるようになります。

 稽古はなるべくやさしく学べるように組み立てた方が良いのです。それを簡潔に行う方法がキーワードによる説明です。そして、日々稽古で大切なことは基礎・基本を大切にし、基本技を通じてそれらを磨いていこうとする意識だと考えます。ただし、やさしくといっても単調な取り組みではすぐに飽きてしまいます。やさしいから取り組める境地があるのです。

 

 作家の井上ひさし氏の言葉に次のようなものがあります。

 

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」

 

 これは合気道を学ぶ上において、そのまま当てはまるのではないかと考えています。合気道では、初心者の頃に習った技を何年、何十年経っても同じように学び技量を高めていきます。その過程において飽きることなく取り組むためには、まさにこのような前提が必要だと思うわけです。

 ゆかいと言っても、楽しくて笑いの絶えない稽古…ではなく、あくまでも「難しいことを学ぶ上での前提」がということになります。

 そんな前提でまた稽古していきましょう。