新宿合気会web 10号 「新会長挨拶」

この度、役員会にて会長として選任されました長南でございます。

歴史ある新宿合気会の会長という重責、大変身の引き締まる思いです。新宿合気会は記録によりますと昭和35年設立し、昨年で設立60年を迎えました。本来ならば昨年から今年にかけて周年行事を企画しておりましたが、昨今新型コロナウィルスにより世界中で人々の活動に制限があるように、行事を実施することができませんでした。行事はもとより日々の稽古でさえも難しい状況ではあります。そうした中、大変な状況にも関わらず、有志が集まり安心安全を第一に工夫をしながらに稽古を再開できているのは明るい希望と言えます。

 私が新宿合気会に入会したのは昭和63年のことです。まだ小学校5年生でしたが、入会当時のことを今でも鮮明に覚えています。初めて足を踏み入れた道場の様子、初めてとった受身、初めて購入した道着の匂いと着た感じのこと、会員の様子、師範のこと。すべてが昨日のように覚えています。

かつて、新宿合気会には素晴らしい先生方がいらっしゃいました。学生の頃の私は全身全霊で毎回の稽古で師匠たちに挑みかかっていました。毎週月・水・金曜日の稽古に飽き足らず師匠に許しを得て本部道場にも毎日通っていた時代もありました。また現在も新宿合気会の師範でいらっしゃる周参見師範にお声がけいただき、バリ合気会の立ち上げの指導やサポートとして、長期間バリ島に滞在していたこともありました。

まさに私の青春時代が詰まった思い入れのある会の会長に就くということは、非常に感慨深い訳でありますが、何よりもこの道場を大切にしていきたいという思いでいっぱいです。

 

 入会して33年が経ちましたが、この間に師匠や仲間が残念ながらお亡くなりになったり、ご引退されたりしています。それでも現在も周参見師範、川島指導員、山岡諸氏らを筆頭に古くからの会員が長く会にて稽古されています。合気道には試合が無いという特徴はいくつもの効果をもたらせますが、いつでも自分のタイミングで稽古を再開できる”しやすさ”があるように思います。そのためには逆にいつでも”戻ってきやすい道場”であるべきだと考えております。基本を大切に、初心者も中級者も上級者も、ある一定の充実感の中で稽古ができる道場でありたいと願っております。

道を追求していくのは長く険しいものです。できたと思ったことが翌日にはできなくなっていたり、悩んでいたらいつの間にかできるようになったりと、その繰り返しです。しかし上達に奇策無しです。地味でも基礎・基本の追求こそが大切である、長年やってきてようやくそのことだけは分かるようになってきました。

かつて私の師匠安田師範(現在は故郷京都に移住)は「かいた汗の量が重要だ」を口癖にされていました。ちょっとやっただけでは何も得られない、どれだけやったかが重要だということです。

ある時、私はこの「汗」とは頭の汗と体の汗の二つのことを意味していることに気付きました。どんなに体ばかり動かして肉体的な満足だけで汗をかいていても上達はしない。しかし一方で、考えるばかり、論じるばかりでちっとも体を動かさないような稽古もダメであり、しっかりと考えながらしっかりと体を動かす。この2つの汗をかくことが大切だと理解しました。現代人は往々にして合気道の様なものに具体的で明確な副作用や、ある特別な効果を期待しがちです。「合気道をやっているとこうなる」というのは、そう簡単には感じないものです。修行の過程において、あまりそういったものに期待をしない方が良いかと思っています。私にとっては、長い人生に楽しみや充実感を与えてくれる、自分に寄り添ってくれる存在が合気道です。決して合気道をやっているから崇高な人間になれる訳ではありません。自分が成長するためには合気道を通じて頑張る「自分」そのものこそが大切です。合気道自体が直接的な成長作用をもたらせているわけではないのです。自分そのものをどう捉えていくかが重要な訳です。そういった精神修養場が道場であり、私たちは合気道を通じて心と体、精神を修練していくわけです。

 そして、私たちにはその思いを共有し賛同する海外の道場があります。令和元年にインドネシア共和国首都ジャカルタにある天恵合気道場がグループ道場として仲間入りしました。同年にはインドネシアで初となる第一回演武大会も開催されました。新宿とジャカルタで仲間が行き来することも可能なコミュニケーションが形成されています。大変素晴らしいことです。昨今のこのパンデミックにより稽古参加者は減少しているものの、その前にはグループ会員としては100名程になります。またいつの日か稽古が本格的に再開され、渡航もできるようになったころには、互いの道場で一緒になって稽古ができたらと願ってやみません。

 

 会長就任に際し、大切にしていきたいことは、「稽古と審査の継続」です。特にこの昨今の状況においては極めて重要なことであると認識しています。安心安全を最優先にしながらも可能な限り稽古を続けていく、当面はそのことを念頭において会の運営を行っていく所存であります。そのためには行事は極力省きます。世界的にも歴史のある新宿合気会ですが、周年記念行事も行いません。その決定は寂しい限りですが、稽古ができなくなることはもっと寂しく、残念なことであります。私たちは合気道の稽古をするために集まった集団です。そのことを第一に運営活動を行っていきたいと思っております。

 

ご挨拶の最後に私の敬愛する故菅野師匠の言葉をご紹介します。

合気道を最高だと思え、だけど自分は最低だと思え」

最善を尽くし、この役職を全うする所存です。

今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 

令和3年4月1日

会長 長南一樹

 

 

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